バタバタバタッ、何か黒いものが目の前を過ぎっていった時、「あっ、卵があるよ!」中学生のリュウ君が叫びました。ヒロ君と私は、何のことか理解できないまま、木材チップの山をかけ上がりました。

 そしてリュウ君の指さす隅をみると、鶏の卵より小さめの丸いものが2つころんとあるではありませんか。この日から1ヶ月半、「ふくろう」との愛情物語が続くことになりました。人間がいなくなると卵を温めにくる親鳥の丸い大きな目、曲がったくちばし、まさに野生のふくろうです。

   

 さぁ、翌日から落ち着きません。工場全員、チップ運搬車の運転手さんまで巻き込んでの保護観察がはじまりました。

 卵がチップに埋もれてしまわないだろうか、蛇がきて飲み込みはしないだろうか心配しつつ、一週間後、一握りの綿くずのようなヒナが誕生しました。それからの成長は驚くほど早く、丸い頭に丸い目、日に日にふくろうの様相を帯びてきました。常に一羽がもう一羽に隠れるように寄り添い、人の気配を敏感に感じとり、小さなくちばしをカチカチとならして威嚇します。

 昼間の行動範囲も広がり、チップの山の上からじっと見わたす姿は、生きたぬいぐるみの様で、微風にそよぐ産毛の柔らかさは見事です。生後1ヶ月足らずのヒナにして森の生きものたちに君臨する王者の風格さえ備わってきました。

   

 6月始めの夜、屋根のひさし近くの梁まで飛べるようになりました。暗闇にぼうっと浮かんでいる姿は、幻想的な感じさえします。山へ帰る巣立ちが近づいているのです。

 翌朝一羽の姿が消えていました。2日後の夜、発見者のヒロ君、リュウ君、そしてマサル君も加わり、一羽になったふくろうに会いに出かけました。何か鳴き声が聞えます。「チチッ、チチッ。」今にも飛び立つかのように、高く積み上げた木材製品の一番上に乗り、空に向かって呼んでいます。耳をすますと山の方からも聞こえます。翌朝残りの一羽の姿はありませんでした。

 さわやかな初夏の風と共にやってきた彼らは、野生に育つ強さと助け合う愛情の素晴らしさを見せてくれました。彼らの姿が見えないとまるでわが子のように心配になり、山に帰ってほっとする反面、たかがふくろうごときに一抹の淋しさを感じるのは滑稽でしょうか。

現在の様に、私たちの環境から"自然"が取り除かれ、そこに住む動物たちさえ生きにくくなっている今、彼らとの触れ合いはますます遠いものになっています。外で遊ぶことが少なくなり、言葉、労働、集団など人格発達の根本的な力を培う土壌が弱まり、テレビ画面に魂を奪われた子供達の横顔は見たくありません。凍てつく冬の降るような星空、オリオンの3つの星、見るものに神秘性さえ感じさせる姫ぼたる、まだまだ自然は残っています。21世紀を背負うヒロ君やリュウ君たちのためにも感動のない環境にしたくはありません。

 九重の山々を元気に飛びまわっているだろうインベーダー達に時折思いをはせる今日この頃です。

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※この文章は広報ここのえ(1997年8月号)のペンリレーに寄せたものです。